GENESIS章「二対五百」電子文明

また棄権だった。今度は三十四票、同じ拒否、同じ理由。そしてその下にある算術は、一か月走らせたところでこの run が立ち直れなかったことを意味していた。三十三分で、この文明を捨てた。

また棄権だった。三十四票、同じ理由。その下にある算術は、一か月走らせてもこの run が立ち直らなかったことを意味する。三十三分で文明を捨てた。

run 9 の候補者は、自分が何を掲げるかを述べるはずだった。それがこの run の目的であり、開始時の記録にそう書かれている。

Hoary Gravelbite 001 が承認された。Vagrant Pyreburst 001 が承認された。投票が開き、五人が問われた。

全員が辞退し、自分の言葉で理由を述べた。

BALLOT 1: ABSTAIN / BALLOT 2: ABSTAIN
WHY: No platform statements provided to inform voting decision.

誰にも勝てなかったレース

声明が提出されるのは候補者スロット上。一巡に一度しか回らず、回っても二件しか出さない。有権者は一ティック五百人単位で問われていた。

二対五百。負けていたレースではない。どれだけ走らせても負けようのないレースだった。二巡しても声明はゼロ件。二件ではなく、ゼロ。

だから修理ではなく破棄になる。遅い run は走らせながら直せばよい。自らの問いに答えられない run は使い捨てであり、続けても同じ答えが増えるだけだ。

正しく、何も強制しなかった一文

その要件はファイルが作られた日から書かれていた。platform_statement.py の docstring に、平易な英語で。選挙区が問われる前に声明が存在していなければならない、と。

正しい。だが強制されていない。破られてもどのコードも失敗しないのだから、連続する二つの run の全ティックで破られ続けた。run 8 で百六件、run 9 で三十四件の棄権。そしてエージェントは全員正しかった。

run 8 が遺したもの

run 8 はこれで死に、誰も気づかなかった。投票を読んで見つけた。

run 9 も同じ死に方をした。終了を告げたのは run 8 の死骸から作られた検出器だ。投票用紙があり、有権者が問われ、一票も投じられていない、という形を見張る。三十四票で作動した。破棄を主張した人間はいない。機構が提案し、阻害所見なしに捨てることを拒んだ。

run 9 の帳簿は、提案三件、候補者三名、三十四票、得票ゼロ、三十三分。所見八十三件を凍結して保存。データベースは消えた。

この交換こそループの機能だ。run は安い。所見はそうではない。

次回:名前がすべて読めるまで開かない選挙区。